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己が展脚を貫け

展脚の手法:頭胸部外れ修理

状態の悪い標本では頭部や胸部が外れてしまうことがある。修理の際はパーツ毎に展脚整形し、それぞれ乾燥させた後に接着するのが一般的。しかし僕は展脚の際、接着作業を同時に行っているので紹介する。f:id:guesstwig:20211008220515j:image今回修理したルデキンツヤ。なかなか綺麗に仕上がった。

僕の方法のメリットは、組み付け後に普通の展脚とほぼ同様に作業ができ、思いがけない仕上がりになりにくいこと。また接着時の破損が少ないことだろうか。

デメリットは変な形に接着された場合のリカバリーが面倒なことと、接着剤がはみ出しやすく乾燥後の清掃が必要ということ。清掃時の破損には注意。

というわけでプラマイゼロという感じだが僕はこの手法一択でやっている。普通に展脚できるというのは僕にとって非常に大きなメリットだ。f:id:guesstwig:20211005234626j:image冒頭個体の修理前。

軟化した後、特に胴体部の水気はなるべく除去したい。水分が多いと接着剤が薄まり流れて汚くなる。こよりにしたティッシュを差し込み、吸い取るのが良いだろう。乾燥し過ぎると跗節や触角を破損しやすくなるので注意。

必要な材料は厚手のケント紙(中性紙)と接着剤。僕は基本的にタイトボンドの液体ニカワで接着している。f:id:guesstwig:20211008222359j:image愛用の液体ニカワ。選択肢もあまりないが、低温でも固まらず扱いやすい。とはいえ少し慣れは必要で、湿気には弱い印象。

液体ニカワははみ出しても水気を含ませた筆やティッシュで除去がしやすい。その他にもメリットはあるが今回は割愛。木工ボンドでも問題無いと思う。f:id:guesstwig:20211008222407j:imageはがきサイズが扱いやすい。最近見かけないがこれはダイソー製品。燃やしてみたが文房具店で買えるもの以上に灰は真っ白、中性紙と信じている。数字通りかなり厚手、かつ硬質。

ケント紙は適当な大きさに切って、接着芯にする。芯を入れると強度は高まるが、例えばつまようじだと姿勢が限定され、展脚の自由度が低くなる。ケント紙であれば接着時に水分を与えて少しふやかすことで、柔軟に姿勢を作ることができる。またラベル作成に使用する人も多いため、導入のハードルは低いはず。

色々試して、見せられる程度には手法がこなれたので今回記事を書いた。ここからは実際の作業について。f:id:guesstwig:20211005232030j:image頭胸部どちらも外れている場合、芯を頭部側と腹部側に分けた方が取り回ししやすい。まずは腹部側の芯。後々調整するので少し長めの短冊に。※今回は組み付け後に針刺ししているが、干渉する場合があるので、針刺ししてからの方が安全かもしれない。その場合、芯はもっと短くなる。針で芯が止まるので長さの目安も付けやすいだろう。f:id:guesstwig:20211005232324j:image開口部の幅と形状を確認する。断面は半円という感じ。奥は狭く手前は幅広い。
f:id:guesstwig:20211005232315j:image差し込みやすいようテーパーをつけて切り出す。この後さらに折るので若干幅広に。
f:id:guesstwig:20211005231902j:image折り線を書き込む。省いても問題ない。f:id:guesstwig:20211005231838j:image書いた線に合わせて折る。ピンセットを使うと綺麗に折れる。
f:id:guesstwig:20211005232037j:image折り込んだ側を上に向けて、腹部開口部へ差し込む。※裏表逆に差し込めば下記の折り込み作業は不要かもしれない…一応修理に大きな影響はない。f:id:guesstwig:20211005235903j:imageこのままだと上方へ反っていて都合が悪い。理由はこの後説明する。f:id:guesstwig:20211005233149j:imageこのように下方向に少し折る。
f:id:guesstwig:20211005233014j:image長さの調整。前胸部から出ているのは長すぎる。
f:id:guesstwig:20211005232529j:imageこの程度まで切る。ここが頭部側の芯と接着されるのりしろ。f:id:guesstwig:20211005233403j:image前胸部の中へ完全に収めて、頭部に干渉しないように。f:id:guesstwig:20211005231846j:image下方向に芯を折ったことで、前脚付け根のV字状の出っ張りへ芯が接触している。ここに頭部側の芯を差し込む。腹部側の芯はこれで完成。f:id:guesstwig:20211005231910j:image頭部側も同様に切り出す。腹部側より短め。f:id:guesstwig:20211005231808j:imageこちらは両端に切り込みを入れて折り込む。f:id:guesstwig:20211005232006j:image頭部には折り込んだ側を下に差し込む。胸部長さとの兼ね合いもあるが、のりしろ長さは概ね腹部側と同じくらいで良いと思う。f:id:guesstwig:20211005231951j:image裏側はこんな感じ。f:id:guesstwig:20211005234218j:image糊づけ前の仮合わせ。胸部のV字の腹部側に頭部側の芯を差し込む。挟みこむことで外れにくくなることを期待し、今回はこの方法を取っている。f:id:guesstwig:20211005232014j:image長さに問題がなければ接着剤を塗布していく。f:id:guesstwig:20211005232022j:imageタイトボンドの液体ニカワをトレイに適量。細筆に水を含ませて使いやすい濃度に。水分が多すぎるとニカワが流れて汚くなったり、芯がふやけすぎて差し込みにくくなったりするので注意。f:id:guesstwig:20211005232053j:imageまず胴体側に塗布する。f:id:guesstwig:20211005231943j:image芯先にニカワを付けて差し込む。f:id:guesstwig:20211005231853j:imageのりしろ裏表に塗布。f:id:guesstwig:20211005232101j:image胸部を組み付ける。接触部には少し多めにニカワを塗る。f:id:guesstwig:20211005232044j:image頭部も同様にまずニカワを塗布。開口部と内側に塗るが、外側には塗らない方が仕上がりは綺麗になる。f:id:guesstwig:20211005231958j:image芯先へニカワをつける。f:id:guesstwig:20211005231918j:image差込んだ後のりしろにも塗布。f:id:guesstwig:20211005231831j:image組み付けていく。胴体側のにかわが乾いてきていたら、軽く水気を含ませた筆で水分を与えてから組む。f:id:guesstwig:20211006000741j:image組み付ける。f:id:guesstwig:20211006000914j:image展脚板に置き、針刺し。芯が干渉しても、ケント紙がふやけている為、芯ごと刺せることが多い。乾燥後の針刺し高さ調整は困難になるが、芯外れの恐れはなくなる。上でも述べたが先に針刺しした方が安全ではある。接着強度も問題ない。f:id:guesstwig:20211006000901j:image展脚板へ固定する。通常の展脚と同じく歪まないように。また各パーツはまだ接着されていないので落下には注意。f:id:guesstwig:20211006001630j:image特に横からしっかり見て調整して欲しい。接着した関節に隙間ができやすいので注意が必要。光に透かすと分かりやすい。f:id:guesstwig:20211006002131j:image展脚完了。胸部の持ち上がりを防ぐため、今回は針金で展脚板へ固定。修理に関係なく僕の展脚では、前脚の筋肉が強いと必要な場合がある。

以上が頭胸部外れ修理の流れ。かなり長かったが、詳しく書いてみた。実際のケント紙の切り方や使い方は、いつも同じではなくブレ幅がある。こんな感じでやってるのね程度に、参考となれば幸いだ。

 

おまけ。下の方法でも頭胸部外れ修理もできるが、意外と取り回しが悪い。

f:id:guesstwig:20211006013844j:image頭部外れのみの場合。
f:id:guesstwig:20211006013908j:image2つ折りにしたケント紙芯。
f:id:guesstwig:20211006013900j:imageニカワを塗布し差し込む。腹部側開口部に届く長さにするのがポイント。
f:id:guesstwig:20211006013808j:image組み付け。
f:id:guesstwig:20211006013816j:image胸部外れのみの場合。
f:id:guesstwig:20211006014602j:imageこれは少し長過ぎた記憶。この半分くらいで良い。頭部までしっかり差し込んである。
f:id:guesstwig:20211006013759j:image腹部側ははみ出させず、隙間を減らして接着面接を増やす意識。こちらにも膠を塗布。
f:id:guesstwig:20211006013852j:image組み付け。